「半年前に辞めた社員のアカウントが、まだ有効なままでした」——クラウドサービスの設定を確認するご支援をしていると、こうした場面に出会うことがあります。悪意があったわけではなく、退職時の手続きに「アカウントを止める」という項目がなかっただけです。鍵の返却や備品の回収は必ず行うのに、クラウドサービスのアカウントだけが手続きから漏れている会社は珍しくありません。本記事では、退職者アカウントを放置したままにするとどうなるのか、そして退職が決まった時点で何をしておけばよいのかを整理します。
なぜ退職者のアカウントは残り続けるのか
アカウントが残る原因は、担当者の意識ではなく、仕組み側にあることがほとんどです。
- 止める人が決まっていない——人事は退職手続きを、現場は業務の引き継ぎを進めますが、アカウントの停止は「どちらの仕事でもない」まま宙に浮きます
- どのサービスを使っているか一覧がない——kintone、Microsoft 365、会計ソフト、名刺管理と、使うサービスが増えるほど、止め忘れる確率が上がります
- 消すと困るかもしれない、と迷う——その人が作ったデータや申請が消えてしまうのではないかと不安になり、判断を先送りにします
- 個人のメールアドレスで登録されている——部署や会社のアカウントではなく個人名義で契約したサービスは、退職後に誰も管理できません
とくに3つ目の「迷い」が、放置を長引かせます。実はここは、あらかじめ方針を決めておけば迷わずに済む部分です。
放置が招く3つの問題
「辞めた人がわざわざログインしてくることはないだろう」と考えてしまいがちですが、問題はそれだけではありません。
- 社外から業務データに入れる状態が続く——クラウドサービスは社内ネットワークの外からも使えます。在職中のパスワードがそのまま使えるなら、顧客情報や取引先の一覧にアクセスできる状態が残ります。本人が使わなくても、そのIDとパスワードが他のサービスの流出で漏れれば、第三者に使われる可能性があります
- 使っていない分の費用を払い続ける——多くのクラウドサービスはユーザー数に応じた課金です。止めていないアカウントは、そのまま毎月の請求に乗り続けます
- データの持ち主が分からなくなる——その人しか管理していなかったアプリや、本人だけに見えていた案件のデータが、退職後に誰も触れない状態になります
3つ目は、アカウントを止めるときにこそ気づける問題です。一人の担当者に業務が集中することのリスクは、「ひとり情シス」が倒れたら会社が止まるでも詳しく扱っています。
【判断基準】削除するか、停止して残すか
退職者のアカウントをどう扱うかは、「消す」か「残す」かの二択ではありません。私がご支援する際にお伝えしている目安は次のとおりです。
まず「停止(無効化)」を選ぶのが基本です。ログインだけを止めれば、その人が作った記録や履歴は残したまま、外部から入れる状態を断てます。退職日当日にまず停止し、引き継ぎが落ち着いてから削除を判断する——この二段構えが安全です。
すぐに削除してよいケース
- ライセンス費用を抑えたい、かつ引き継ぎがすでに完了している
- その人が担当していた業務が終了し、記録の参照も不要と確認できている
削除を急がないほうがよいケース
- 承認フローの途中にその人が承認者として残っている
- その人が作成者になっているアプリや共有ファイルがある
- 過去の記録を誰が入力したかを追えるようにしておきたい
なお、アカウントを削除したときにデータや履歴がどう扱われるかはサービスごとに異なり、仕様も変わり得ます。実際に削除する前に、使っているサービスの現在の仕様を必ず確認してください。ライセンスの数え方についてはkintoneのライセンスガイドも参考になります。
退職が決まったらやる5つのこと
退職の申し出から最終出社日までの間に、次の5つを順番に進めておくと、あとから困りません。
- ①使っているサービスを書き出す——その人がログインしているサービスを本人に挙げてもらいます。退職者本人に聞ける最後の機会です
- ②管理者権限の有無を確認する——管理者がその人だけになっているサービスがあれば、最優先で別の人に移します
- ③承認者・担当者の付け替えをする——進行中の申請や、その人が担当になっている案件を引き継ぎます
- ④最終出社日にログインを停止する——引き継ぎの完了を待たず、まず止めます。データは残るので影響はありません
- ⑤1か月後に削除の可否を判断する——落ち着いた時点で、残すか消すかを決めます
この5つを退職手続きのチェックリストに入れてしまえば、担当者が代わっても抜けません。権限の設計そのものを見直したい場合は、kintoneの権限管理もあわせてご覧ください。
まとめ——アカウントの棚卸しは、年1回ではなく「退職のたび」に
退職者アカウントの放置は、大きな事故が起きて初めて表面化します。しかも起きたときには、いつから放置されていたのかを追うことすら難しくなります。特別なツールは必要ありません。退職手続きに「アカウントを止める」という一行を加え、誰が実行するかを決めておくだけで、リスクの大半は防げます。
あわせて、年に一度は在籍者とアカウント一覧を突き合わせてみてください。止め忘れだけでなく、誰も使っていない有料アカウントや、把握していなかったサービスが見つかることもあります。
DX Connectでは、kintoneをはじめとするクラウドサービスの権限・アカウント運用の見直しをご支援しています。「誰がどのサービスを使っているか把握できていない」という段階からでも構いませんので、お気軽にご相談ください。