「CopilotとGemini、どちらがいいのか」は、生成AIの導入を検討するときに迷いやすい問いです。比較記事を読み比べても、決め手が見つからないことがあります。それは当然で、この2つは性能を比べて選ぶ製品ではなく、ふだん使っている業務基盤に付いてくるものだからです。本記事では、中小企業が実際にどこを見て判断すればよいのかを整理します。
「どちらが賢いか」で選ぶと失敗しやすい
比較で迷う方のほとんどが、回答の精度や対応できる作業の幅を基準にしようとします。しかし業務で使う場面では、この基準はうまく働きません。理由は3つあります。
- 優劣が短期間で入れ替わる——各社が頻繁に機能を更新しているため、「今どちらが上か」を基準にすると、半年後には前提が変わっています
- 社内の文書やメールを読ませられるかで価値が大きく変わる——一般的な質問に答える力より、自社の資料を踏まえて答えられるかどうかが実務では効きます
- 使ってもらえるかは「どこで呼び出せるか」で決まる——別のサイトを開いて貼り付ける手間があると、忙しい現場では使われなくなります
この3点目は見落とされがちですが、実務ではもっとも効きます。どれだけ性能がよくても、呼び出すまでに手間がかかるものは使われません。
決め手は、ふだんのメール・文書・会議がどこにあるか
判断がつきやすいのは、次の問いに答えたときです。社員が毎日使っているメール・文書・表計算・会議のツールは、Microsoft 365とGoogle Workspaceのどちらですか。
Microsoft 365 CopilotはMicrosoft 365の中で、GeminiはGoogleのサービスの中で動くものとして提供されています。どちらも、その基盤に蓄積された自社のメールや文書を踏まえて答えられる点が、一般的なチャット型AIとの大きな違いです。逆に言えば、基盤の外にあるデータについては、その利点が働きません。
つまり判断の筋道はこうなります。
- Microsoft 365を全社で使っている → Microsoft 365 Copilotを軸に検討する
- Google Workspaceを全社で使っている → Gemini(Workspace向けの提供)を軸に検討する
- どちらも中途半端に使っている → まず業務基盤そのものの整理を先に検討する
3番目は後回しにされがちですが、実務では重要です。メールはMicrosoft、ファイル共有はGoogle、会議は別のサービスという状態では、どちらを選んでも「社内のデータを踏まえて答える」部分が中途半端になります。この場合はAIの選定ではなく、基盤をどちらに寄せるかの検討が先です。
なお、Microsoft 365 Copilotが具体的に何をできて何をできないのかはMicrosoft 365 Copilotは何ができて、何ができないのかで整理しています。ChatGPTを含めた3者の一般的な比較はChatGPT・Copilot・Gemini——どれを選ぶべきかを参考にしてください。
【判断基準】基盤に合わせて選ぶべき場合・別のAIを併用してよい場合
次のように切り分けると判断しやすくなります。
業務基盤に合わせて選ぶべきなのは、こういう場合です。
- やりたいことが、社内のメール・文書・会議の内容を踏まえた要約や下書き作成である
- 利用者が全社または部署単位で、ITに詳しくない社員も含む
- 会社として利用状況を把握・管理したい(誰が何に使っているかを管理者が見られる状態にしたい)
- 社内データを扱うため、個人契約のサービスに貼り付けさせたくない
別のAIを併用してよい、あるいは併用したほうがよいのは次の場合です。
- 用途が社内データと関係ない(文章の推敲、調べ物の下書き、アイデア出しなど)
- 使うのが数名で、効果を試す段階にある
- 特定の作業について、使い慣れたツールのほうが明らかに作業が速い
- 基盤側のAIが自社の必要な機能に対応していない、または費用が見合わない
判断の線をひとことで言えば、社内のデータを読ませる用途は基盤に合わせ、読ませない用途は好きなものを使ってよいということです。全社で1つに統一しなければならない、と考える必要はありません。ただし、どの用途でどれを使うかは決めておく必要があります。
各製品の機能・提供形態・ライセンス条件は提供元の仕様によります。この分野は変化が速いため、具体的な比較検討の段階では必ず最新の公式情報をご確認ください。本記事は執筆時点の一般的な考え方を整理したものです。
選んだ後に揃えること(利用ルール・権限・試す範囲)
選定で力を使い切ってしまい、導入後の整備が後回しになりがちです。少なくとも次の3点は、使い始める前に決めておくことをお勧めします。
- 利用ルール——何を入力してよいか、出力をそのまま社外に出してよいか。個人契約のサービスの扱いも含めて決めます
- 見える範囲の確認——基盤のAIは、その人が見られるファイルを踏まえて答えます。つまりファイルの共有設定が緩いと、本来見えないはずの内容が回答に出てきます。導入前に共有設定の点検が必要です
- 試す範囲と期間——まず数名・1部署で、どの作業に使うかを決めて試します。全社に一斉配布してから用途を考えると、使われないまま費用が続きます
2番目は、基盤に組み込まれたAIを入れるときに固有の論点です。これまで「探されなければ見つからない」状態で済んでいたファイルが、質問に答える形で表に出てきます。利用ルールの作り方は中小企業がまず作るべきAI利用ルールで扱っています。
まとめ——基盤から決め、用途で使い分ける
CopilotとGeminiの選択は、性能比較ではなく「ふだんのメール・文書・会議がどこにあるか」で決まります。社内データを踏まえて答えてもらう用途なら、使っている業務基盤に合わせるのが自然な選択です。
そのうえで、社内データと関係ない用途については、無理に統一せず使い慣れたものを認めるほうが現場は動きます。大事なのは「どの用途でどれを使うか」を決めておくことです。そして導入前に、ファイルの共有設定を点検しておく。この順番を守るだけで、選定後のつまずきはかなり減ります。
DX Connectでは、業務基盤の状況を踏まえたAIツールの選定整理から、利用ルールづくり、試す範囲の設計までご相談を承っています。「自社の環境ではどちらが向いているか」の整理だけでも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。