Power BIのレポートが社内で使われ始めると、次に出てくる課題はほぼ決まっています。「作れる人を増やしたいが、どう育てればよいか」です。研修に出すべきか、資格を取らせるべきか、実務のなかで覚えてもらうべきか。本記事では、この3つの手段でそれぞれ何が身につき、何が身につかないのかを整理し、育て方の順番をお伝えします。
「誰か一人が詳しい」で止まる会社が多い
Power BIの社内展開でよく起きるのは、最初に興味を持った1人が作り方を覚え、その人に依頼が集中していく流れです。本人は詳しくなりますが、会社としては次の状態になります。
- 修正の依頼がすべてその人に行き、本来の業務が圧迫される
- その人が休むと、数字の更新や修正が止まる
- 異動・退職の話が出た瞬間に、会社として手が無くなる
- 他の社員は「難しそう」という印象だけが残り、使う側にも回らない
この構造そのものと、引き継げる形で作る工夫はそのPower BIレポート、作った人が異動しても直せますかで扱いました。本記事はその先の「人をどう育てるか」に焦点を当てます。
前提として押さえておきたいのは、育てる対象は「作れる人」だけではないという点です。実務で必要なのは、レポートを新しく作れる人・既存のものを直せる人・見て業務判断ができる人の3層です。全員を作れる人にしようとすると、研修の負担が過大になり、しかも誰も定着しません。
研修・資格・OJT——それぞれで身につくこと・身につかないこと
3つの手段には、はっきりと役割の違いがあります。
- 研修(外部講座・社内勉強会)——操作の全体像と用語が短時間で揃います。独学で遠回りしがちな部分を飛ばせるのが利点です。一方、自社のデータで何をどう作るかは身につきません。研修直後に自社のデータを前にすると手が止まる、というのが典型的な反応です
- 資格——知識の抜けが埋まり、学習範囲が明確になります。本人の自信にもつながります。ただし、自社の業務に合うレポートを設計する力とは直結しません。試験の範囲は実務で使わない領域も含みます
- OJT(実務のなかで覚える)——自社のデータの癖、現場が本当に見たい数字、運用上の制約が身につきます。もっとも実戦的ですが、教える側の時間が必要で、かつ最初の1枚を作れる段階に達していないと成立しません
つまり3つは代替手段ではなく、順番に組み合わせるものです。研修で土台を作り、OJTで自社に合わせ、必要な人には資格で知識の抜けを埋める。この順序が逆になると、時間と費用のわりに成果が出ません。Power BIそのものの難易度の感覚についてはPower BIは「難しい」のか?も参考にしてください。
【判断基準】資格取得を目標にしてよい人・遠回りになる人
「資格を取らせたほうがよいか」は、人によって答えが変わります。判断の目安は次のとおりです。
資格取得を目標にしてよいのは、こういう人です。
- すでに自社のデータでレポートを数枚作っており、手が動く段階にある
- 情報システム部門などで、他の社員に教える立場に回る予定がある
- データの設計や接続の部分を担当する(表面の操作だけでは足りない役割)
- 学習に使える時間が業務として確保されている
逆に、遠回りになりやすいのは次の場合です。
- まだ1枚も作ったことがなく、何を作るかも決まっていない
- 役割として「既存のレポートを直せればよい」人
- 業務の合間に自習させる前提で、時間が確保されていない
- 「資格を取れば使えるようになる」と期待されている(本人も周囲も)
とくに最後の点は注意が必要です。資格は到達の確認には役立ちますが、出発点には向きません。まずは自社のデータで1枚作り切る経験を先に持たせたほうが、学習の効率が上がります。最初の1枚の選び方はPower BIで最初に作るべきレポートは何かで整理しています。
なお、資格の名称・試験範囲・受験費用は提供元の制度によって変わります。本記事は執筆時点の一般的な考え方であり、具体的な受験を検討する際は最新の公式情報をご確認ください。
社内で回る状態にするための育て方の順番
次の順番をお勧めします。期間は会社の状況によりますが、数か月単位で考えるのが現実的です。
- 1. 役割を3層に分ける——作る人(1〜2名)・直せる人(2〜3名)・読む人(それ以外)。全員に同じ教育は不要です
- 2. 作る人に、最初の1枚をやり切らせる——研修で土台を作り、実際の業務データで1枚完成させます。ここで支援を入れると立ち上がりが速くなります
- 3. 直せる人を、修正作業から入れる——新規作成より、既存レポートの項目追加や色の調整から始めます。負担が小さく、成功体験が得やすい入口です
- 4. 作り方の決めごとを文書にする——命名、色、計算の定義、更新の手順。これが無いと、人が増えるほどバラバラになります
- 5. 読む人向けに、短い説明の場を作る——30分で「どこを見れば何が分かるか」を伝えます。作り方の説明は不要です
この順番で効くのは3番目です。「作れる人を増やす」より「直せる人を増やす」ほうが、依頼の集中は早く解消します。実務で発生する依頼の大半は新規作成ではなく修正だからです。1人に集中している状態を崩すには、ここから手を付けるのが最短です。
まとめ——役割を分けてから、手段を当てる
Power BIの社内育成でつまずくのは、たいてい「誰を、どこまで育てるか」を決めずに手段から考えたときです。研修も資格もOJTも、それぞれ効く場面が違います。
まず作る人・直せる人・読む人に役割を分ける。作る人には研修とOJTで最初の1枚をやり切らせる。直せる人は修正作業から入れる。資格は、手が動くようになった人の知識の抜けを埋める段階で検討する。この順番にするだけで、同じ費用でも社内に残るものが変わります。
DX Connectでは、Power BIの最初のレポート構築の伴走から、作り方の決めごとづくり、社内で修正・運用が回る状態への引き継ぎまでご相談を承っています。「どこまで社内で持ち、どこを外に出すか」の整理だけでも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。