「Power BIの研修を受けたのですが、自社で何を作ればいいのか分からないままです」——研修を受けたあとに、こうした状態で止まってしまうことは珍しくありません。操作の手順は学んだ、サンプルのダッシュボードも触った。けれども自社のデータを前にすると、最初の1枚が始まらない。これは理解不足ではなく、「何を作るか」を決める作業が手順の説明から抜け落ちているために起きます。本記事では、最初に作るレポートをどう選べばよいかを整理します。
操作を覚えても、レポートが作れない理由
ツールの学習は、どうしても機能の順番で進みます。データを読み込む、列を整える、グラフを置く、公開する。一つひとつはできるようになります。しかし実務では、手を動かす前に決めておくことが別にあります。
- 誰が見るレポートなのか(見る人が決まらないと、粒度が決まりません)
- 何を判断するために見るのか(判断が無いレポートは、作っても開かれません)
- その判断に必要な数字は、いまどこにあるのか
- その数字は、どれくらいの頻度で更新されるべきなのか
これが決まっていない状態で作り始めると、思いつく指標を次々に並べた「全部入り」のレポートになります。結果として誰の判断にも使われず、更新も止まる——いわゆる「使われないダッシュボード」の入口がここにあります。つまり、最初の1枚で詰まる原因はツールの難易度ではなく、対象業務の選び方にあります。
最初の1枚に向く業務・向かない業務
最初のレポートには、次のような業務を選ぶことをお勧めします。
向いているもの
- すでに毎月・毎週、手作業で同じ集計を作っている業務(完成形がはっきりしている)
- 数字の出どころが1〜2か所に収まっている業務(つなぐ手間が小さい)
- 見る人が数名で、その人が「こう見たい」と言える業務
- 見た結果、何かを決める・誰かに連絡するといった次の動作がある業務
最初には向かないもの
- 経営会議用の全社ダッシュボード(関係者が多く、指標の合意に時間がかかります)
- 複数システムをまたいでデータを突き合わせる集計(元データの整備が本題になります)
- いま誰も集計していない、「あったら面白そう」な分析
- 数字の定義が部署によって違う指標(売上の計上基準などが揃っていない場合)
要するに、最初の1枚は「新しく何かを見る」ためではなく、「いま手作業でやっていることを置き換える」ために作るのが確実です。完成形が分かっているので作り切れますし、効果も説明しやすくなります。手作業の置き換えという観点は毎月のExcelレポート作りから卒業するで詳しく扱っています。
【判断基準】最初に作るレポートを選ぶ4つの問い
候補がいくつか挙がったときは、次の4つを問いとして当ててみてください。すべてに答えられる業務が、最初の1枚に適しています。
1. この数字を見て、誰が何を決めるのか
「状況を把握するため」では足りません。在庫が一定を下回ったら発注する、滞留している案件に連絡する、といった動作まで言えるかを確認します。決める人が特定できていれば、見せ方の判断も任せられます。
2. いまその集計を誰かが手作業で作っているか
作っているなら、所要時間と作っている人がはっきりします。置き換えた効果がそのまま測れるため、次の予算の話にもつながります。
3. 元データは1か所から取れるか
最初から複数システムを結合しようとすると、本題が「データ整備」に移ります。1か所で済む業務を選べば、2〜3日で形になります。
4. 止まったときに誰が困るか、どれくらい困るか
最初の1枚は練習も兼ねます。更新が1日止まっても業務が破綻しない範囲から始めるのが安全です。基幹業務の中核に最初から据えるのは避けます。
4つのうち1と2に答えられない候補は、順番を後ろに回してください。見る指標そのものを絞り込む手順は「見る数字」を絞れない会社の末路で扱っています。
作ったあと、2枚目に進む前に確認すること
1枚できたら、すぐ次を作りたくなります。その前に、2〜3週間ほど運用して次を確認してください。
- 実際に開かれているか——見るはずの人が、週に何回開いたか。開かれていなければ、見せ方か対象業務の選択に原因があります
- 数字が疑われていないか——「この数字、合っていますか」と聞かれるなら、定義か元データの確認が先です
- 手作業が本当に止まったか——並行して従来の集計も続いている場合、置き換えは完了していません
- 自分以外が直せるか——作った人しか触れない状態のまま枚数を増やすと、属人化が固定されます。属人化させない作り方と引き継ぎを早い段階で押さえておくと安全です
なお、Power BI の画面構成や機能名、ライセンスごとに使える範囲は提供元の仕様によります。仕様は変わりうるため、具体的な操作は最新の公式情報をご確認ください。本記事は操作手順ではなく、作る対象の決め方についての整理です。
まとめ——「使い方」より先に、置き換える手作業を1つ決める
最初の1枚が始まらない原因は、たいてい操作の習得不足ではありません。見る人・決めること・元データ・止まったときの影響。この4点が決まっていないまま画面を開いているからです。
逆に言えば、いま誰かが毎月手作業で作っている集計を1つ選べば、それだけで4点はほぼ埋まります。完成形が分かっている仕事を置き換えることから始め、実際に使われて手作業が止まったことを確認してから2枚目に進む。この順番が、結果的にもっとも早く定着します。
DX Connectでは、最初に作るレポートの選定から構築、現場で直せる形への引き継ぎまでご支援しています。「何から作るべきか」の整理だけでも構いませんので、現在の集計業務をお聞かせください。