「来月からkintoneに切り替えます。Excelはもう使いません」——この宣言でうまくいく会社は、正直あまり多くありません。新しい仕組みに不安がある状態で退路を断たれると、現場は前に進むより身構えます。一方で「しばらく両方でやりましょう」も、放っておくと二重入力がそのまま定着します。本記事では、戻れる状態を保ちながら移行する「並行運用」の設計と、やめどきの見極め方を整理します。
「一気に切り替え」が現場の反発を生む理由
反発の正体は、新しいツールへの拒否感ではありません。ほとんどの場合、次のような具体的な不安です。
- 締め日や請求のタイミングで動かなかったら、業務が止まる
- 今までExcelでできていた集計が、同じようにできるか分からない
- 操作に慣れていない人がいて、その人の作業が遅れそう
- うまくいかなかったとき、誰が責任を取るのかが曖昧
これらはどれも、現場としてはまっとうな心配です。そして並行運用は、この心配に対して「うまくいかなければ元のやり方に戻せます」という答えを用意する方法です。挑戦のハードルを下げるための仕組みであり、決断を先延ばしにするための仕組みではありません。
逆に、最初の1か月で困りごとが出ない業務なら、並行させずに切り替えたほうが早く楽になります。並行運用は、止まると影響が大きい業務に限って使うのが基本です。
二重入力を最小化する並行運用の設計
並行運用で最も嫌われるのは、同じ内容を2回入力させられることです。ここを設計せずに始めると、現場の負担が増えただけで終わります。実務では次のように組み立てます。
- 入力の正はkintone、Excelは出力に回す——両方に手で入れるのではなく、入力はkintoneだけにし、必要なExcelはkintoneから書き出して作ります。これが最も負担が軽い形です
- 並行する範囲を業務単位で絞る——全業務ではなく、たとえば案件管理だけを並行させ、請求は従来どおりにします。範囲が狭いほど比較も判断も簡単になります
- 期間を先に決める——「1か月」「締めを2回通すまで」のように、始める前に区切りを決めます。期限のない並行運用は、ほぼ確実に固定化します
- 何を見て判断するか決める——入力の漏れ、探す時間、差し戻しの回数など、比べる対象を2〜3個に絞って決めておきます
なお、既存のExcelをkintoneへ取り込む手順や、取り込み時に崩れやすい項目についてはわずか3分でアプリが完成? Excelからkintoneへの移行手順で詳しく扱っています。並行運用の準備としても、先に一読をおすすめします。
【判断基準】並行運用をやめてよいサイン・続けるべきサイン
「いつまで両方やるのか」は、現場からも必ず出る質問です。私がお伝えしている目安は次のとおりです。
Excelをやめてよいサイン
- 締めや月次の山を、少なくとも2回kintone側で問題なく通せた
- 困ったときに「Excelで確認する」人が、ほとんどいなくなった
- 必要な集計が、kintoneの一覧やグラフ、または書き出しで用が足りている
- 操作について聞かれる回数が、目に見えて減ってきた
まだ続けるべき、あるいは設計を見直すべきサイン
- kintoneに入れた後で、念のためExcelにも転記している人がいる——設計かルールのどちらかに問題があります
- 特定の担当者だけがExcelを使い続けている——理由の確認が必要です。多くは、その人の業務に必要な項目が足りていません
- 止まると影響が大きい処理を、まだ一度も本番の山で通していない
とくに注意していただきたいのは、期限を延ばす判断を繰り返すことです。並行運用が長引くほど、Excel側にしかない情報が生まれ、最新版がどれか分からなくなります。この状態は「最新版はどれ?」事件簿で扱った問題が、移行の途中で再発している状態です。
「そのまま二重運用」で固定化させないために
並行運用が失敗するパターンは、ほぼ一つに集約されます。誰も終わらせる判断をしないことです。これを避けるために、始める段階で次の3つを決めておいてください。
- ①終わりの日付を決め、社内に共有する——「この日に判断します」まで含めて伝えます。判断の日であって、強制切替の日ではない点も一緒に伝えると、抵抗が下がります
- ②判断する人を決める——現場の合意を待つと決まりません。最後に決める人を先に決めておきます
- ③戻す場合の条件も決める——「何が起きたら元のやり方に戻すか」を言葉にしておきます。戻す条件があるからこそ、現場は安心して試せます
③まで決めておくと、万一戻した場合も「失敗した」ではなく「条件に従って判断した」になります。この違いは、次に改善へ踏み出せるかどうかに直結します。定着が進まない原因の整理は「kintoneを入れたのに誰も使わない」を防ぐもあわせてご覧ください。
まとめ——退路を残すことが、前に進む条件になる
並行運用は妥協ではありません。止まると困る業務を扱う会社にとって、現実的で有効な進め方です。ただし効果を出すには、期間・範囲・判断する人・戻す条件を先に決めることが欠かせません。決めずに始めた並行運用は、そのまま二重入力として残ります。
まずは、並行させる業務を一つだけ選び、締めを2回通すまでという期限を置いてみてください。判断に必要な材料は、その2回でほぼ揃います。
DX Connectでは、移行範囲の切り分けから並行運用の設計、切替判断の同席までご支援しています。「試したいが、止まったら困る」という段階でも、お気軽にご相談ください。